東西ドイツの統一と朝鮮半島の南北の統一を比較してみると、幾つかの大きな違いや課題が浮び上がってくる。
最初に「周辺国の政治状況」である。東西ドイツの統一は、何よりも地球規模の冷戦構造が終了した時点で可能となったことである。ソビエト連邦が崩壊し、東ドイツは政治的・経済的に大きな後ろ盾を喪失した。統一を阻んだ最も大きな要素であるソビエトの崩壊がドイツ統一を決定的に可能にした。更には、東西ドイツ両国は互いに銃火を交えた「戦争したことがない過去」も幸いした。戦争という過去の怨念がなかったのである。西ドイツでは「統一政策」は政権が変わってもだいたい継続してきたし、その政策は国民の中にも浸透していた。経済的には統一時の「経済格差」がおおよそ1対3(1対4?)であると言われた。これでも大きな経済格差であったが、なんとか統一できるレベルであった。西ドイツでは統一税(連帯付加税)を徴収して統一の準備を進めた。更には過去のドイツの技術などが東でも生きながらえていたし、西ドイツの経済は堅調に発展していた。そして、制限があるとはいえ、東ドイツでも「国民の移動の自由」はあり、国外情報に触れることもできた状況があった。東ドイツは国民が第三国を通して西ドイツなどに移動(逃亡?)することを抑えられなくなった事が、国家崩壊の大きな要因ともなった。1989年だけを見ても六万人の東ドイツ市民が西側に逃亡した。1991年から95年に東ドイツに投入された資金は69兆円とも言われ、その後の資金投入を考えると一兆6000億ユーロが公共部門を通して東ドイツにつぎ込まれた。それでも東ドイツの経済は西側には追いつかなかった。共産主義化で圧迫されたとはいえ、「キリスト教文化を共有」していたことも幸いした。
翻って朝鮮半島の南北統一を見ると、周辺国家の状況が不安定である。南北の統一に大きな影響力を持つ国はアメリカと中国だが、経済的に強大化する共産党独裁政権が簡単に南北の統一を許すとは思われない。統一後の朝鮮半島が自由で開かれた民主国家となった場合、それと国境を接する事は中国にとって悪夢となる。中国人の意識の中には「朝鮮半島は歴史的に中国の一部」というものが深く残っている。南北の統一は結局米中の関係が大きな影を落とすものである。
更に、現在は韓国国民も黙っているが、1950年に勃発した大きな声で犠牲者を出した韓国動乱(朝鮮戦争)での血で血を洗う戦いと、その後の様々な北からのテロなどを考慮すると、南北の国民の感情がどのように動くか不安定である。南北の人々が払ってきた今までの犠牲は相当なものである。それを一瞬に「なかったことにする」事はできるだろうか?次の大きな問題は政治体制があまりにもちがっており、北の体制を維持したままでの統一となれば、一国二制度(或いは連邦制)を選択しなければならなくなるであろう。その際の政治的統合をどうするかで、再び分裂する可能性を残すこととなる。
更に、統一された朝鮮半島の国家が周辺国の脅威になってならないように注意深く統一を進める必要がある。従って、核兵器の完全廃絶は南北統一の必要条件となるであろう。核兵器そのものがアメリカや日本のみならず中国やロシアの脅威でもあることを忘れてはならない。周辺国家に脅威を与えないように、ドイツがどれほど気を使ってきたことか!
南北の経済的格差は比較しようが無いくらいに拡大しているのではないであろうか。南北統一後の経済格差是正には膨大な資金を必要とする。北朝鮮のインフラ整備や国民への医療サービスなども南レベルにする為には、ドイツとは比較にならないほどの巨額資金が必要となる。しかも縮小された南北の軍隊の職業軍人を失業者にするか、雇用機会を作るかも大問題となる。もしこれらが実現できないで、北の人々が移動の自由を獲得すれば、北の人口の多くが南に労働者として移動してくることになる。その際の社会問題で、いまもドイツは苦しんでいるし、東西の経済格差が残っている。従って、韓国自体の経済発展が安定的に継続しなければ、南北の統一の基礎資金を賄うことはできない。もちろん周辺諸国も支援をしなければならないが、もしアメリカや日本などの周辺国に要求すれば良いと言った短絡的な発想が韓国にあるとすれば統一の障害となるであろう。しかも北朝鮮の人々が移動の自由を得て、更に外国からの情報に自由に接した時、人々はどのように反応するであろうか?北朝鮮の体制のソフトランディングを真剣に検討しなければならない。どちらにしても、東西ドイツがそうであるように、南北の統一は何十年かのプロジェクトとなる。その間、南の韓国民の経済生活などを相当圧迫する可能性も否定できない。従って、周辺国の支援も必要だが、何よりも韓国民の忍耐心が必要となってくる。同胞として、統一できることの喜びが統一過程における困難を超える大きさにならなければならない。韓民族の「統一への熱い思い」が半島全体、そして海外同胞に拡大しなければならない。結局「血は水よりも濃い」ということが重要な要件となのではないだろうか。
(大塚克己 UPFヨーロッパ会長)