黄七福自叙伝48
「ああ祖国よ 我れ平壌で叫ぶ時 祖国は統一」
第4章 民団大阪本部の団長として
民族反逆者に名指しされたこと
万景峰号は北朝鮮の清津から出ることになっていた。出るとすぐ、私に情報が入った。
事前に情報が入れば、準備がしやすいのは当然のことで、闘いというものは情報をいかにしていち早くキャッチするかにかかっている。
間際になって情報を得ても準備不足で闘いには勝てないということだ。
淀川の堤防が決壊して、砂やなんやといっても間にあわないし、暗い部屋で何かに当たって、電球、電球と探しても間にあわないのと同じだ。
電球があることを事前に知って、難を避けねばならないし、淀川が決壊しないように事前に準備する必要があるということだ。
私は、そういうことを、ことあるごとに、口がすっぱくなるほど組織幹部らに説いた。敵に勝つためには、組織そのものが耳や目を持って、情報を収集し、動員力を高めていかなければならないということだ。
余談になるが、大阪港では山九運輸が万景峰号の窓口だった。万景峰号が積んできた荷物は何か、その情報の把握に努めた。
一度は藁を積んできたことがあった。牛の飼料にしかならない藁がなんで必要なのかということから、それはウソだという話になった。
青森県に朝総連から民団に転向した人がいて、その人の話が、その謎解きになった。
朝総連のときは万景峰号に自由に出入りしていたから、民団に転向しても同じように出入りしていたことから、韓国で反共法違反で検束された。
自供によれば、その人が、牛のエサとして藁を輸入していたのだ。日本では農薬を散布しす ぎて、飼料としての藁が絶無の状態だったからだった。
北朝鮮の放送で、私は「民族反逆者」にされた。「朴正熙の手先」「ヤクザ」「不順分子」などとも中傷誹謗された。
そのことを、富士の社長が知っていたから、ボディーガードをつけてくれたし、政府関係者も「体に気をつけなさい」と忠告してくれた。
私の遠い親戚の子が、朝総連の金剛歌劇団にいるということで、その関係かどうかは定かでないが、「北朝鮮へ行こう、行こう」と誘われたことがあった。
が、私は「統一してからいく」と断った。
総力安保決起大会のこと
一九七五年五月、中之島剣先公園で「総力安保大阪地区決起大会」を開くと、七万人という民団史上かつてない人が集まり、「総力安保」「金日成打倒」「朝総連紛粋」などのプラカードやタスキやハチ巻きが会場を埋め尽くした。
私は、屋外で活動するときは、大衆が見に来るということを前提で、戦略、戦術を立てなければならないということを鉄則としていた。
その野外活動で、いい加減なことをしていたら、あの組織は弱いと見られてしまい、闘いに勝利できないからだ。
つまり、常に相手に対する絶対的な力の行使がなければならないということで、その場合の絶対的な力というのは、動員力だった。
大会長である私は、
「北傀の金日成集団は南侵トンネルを掘り続け、野望の南侵赤化を企んでいる。総力安保の精神武装で金日成を打倒し朝総連を粉粋しよう」
と檄を飛ばした。
尹達鏞民団中央本部団長や本国から駆けつけた李道先国会議員と金守漢議員も激励の辞を述べ、 裵順姫婦人会大阪本部会長らが「朴正熙大統領に送るメッセージ」「フォード米大統領に送るメッセージ」を読み上げ、大会決議文を採択した。
デモ行進に移り、宣伝カーと民族学校の女子学生が掲げる太極旗を先頭に、北浜~御堂筋~ 難波球場へと行進し、「金日成の南侵野望粉砕」「朝総連粉砕」「日本のスパイ基地化反対」などをシュプレヒコールし、沿道の人々に訴えた。
[大会決議文]
今日、在日大韓民国居留民団大阪府地方本部管下七万名は、総力安保大阪地区決起大会を開催して祖国安保に真っ先に立って進み愛国愛族精神を挙国的に集中し、本国政府施策を遵守し、忠誠を尽くすことを確約して、つぎのとおり決議する。
①わわわれは祖国危機に対処した大統領特別談話と難局に対処したこれに伴う大統領緊急措置第九号を絶対支持する。
②われわれは緊急措置第九号の精神を徹底的に具現し、政治、経済言論など波動がはなはだしい国際情勢に能動的に対処し、北傀金日成の野望を粉砕するために国家安保に総力を傾注する。
③われわれは北傀とその手先である朝総連および不純分子たちの流言蜚語と民団浸透工作を粉砕し、朝総連および不純分子一党を打倒するまで猛烈な運動を展開すると同時に朝総連傘下に呻吟する善良な同胞の包摂運動も積極的に推進する。
④われわれは組織強化を図るため、セ民団運動を全国的に推進して団員の権益擁護と生活安定を期すると同時に祖国防衛に総決起する。