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青春18きっぷの旅について

 汽車旅が好きかどうかと、尋ねられたら、好きと答えるかもしれない。

 バス旅もいいが、ずっと席に座ってばかりだと、同じ姿勢でいなければならないので、足や腰の筋肉がこわばってしまう面がある。

 だが、一番の問題はトイレである。汽車であれば、トイレが付設した車両まで行けばいい。

 トイレが気になるのも、頻尿とまではいかないが、よく行くからである。

 その意味では、行きやすい汽車の方が精神的に安心できる。

 ただ汽車は路線が決まっているので、バスのような小回りが出来ないのが欠点といえば欠点と言えるかもしれない。

 その汽車旅に、廉価で利用できる「青春18きっぷ」があることはよく知られている。

 夏休みや冬休みなどのシーズンに発売される期間限定の切符である。

 その日の乗車ならば、一枚の切符を使って、終日、どこまでも行ってもいい。

 青春という名前がついているので、年齢的な制限があるかといえば、それはない。

 利用者は、老若男女関わりなく、購入できるし、利用できる。

 ただ、基本的に乗れる列車が各駅停車か快速などぐらいなので、長時間列車を乗り継ぎしながら行かなければならない。

 なので、時刻表などで時間を調べたり、路線図を見て研究しなければならないという作業が必要になる。

 旅が好きな人には、この旅に出る前の下調べが好きな人もいれば、何にも考えずに行き当たりばったりに行くのが流儀の人もいる。

 その点からすれば、「青春18きっぷ」は、下調べをしなければならない切符である。

 その意味では、時刻表の地図と列車のダイヤ、乗り継ぎなどを考えて、自分なりの旅のルートを考えて工夫できる。

 ただ、問題は普通列車が中心になるので、目的地に行くまで時間がかかり、体力が要り、退屈な時間をどう過ごしていくかという問題を解決しなければならない。

 そんなのは、車窓の風景を見ていればいいのではないか、という意見もあるだろうが、ただ見ているだけでも目が疲れてしまうのは確かである。

 ならば、本を読んだり、スマホを見たり、うとうとと仮眠を取ったりしたらいいだろう、という見方もできる。

 だが、それでも、かなりな体力を使う。

 そうしたことを考えると、「青春18きっぷ」は年齢制限はないけれど、体力的な面からみれば、若者向きということはある。

 ことわざに「可愛い子には旅をさせよ」という言葉があるが、その利点から考えれば、「青春18きっぷ」は若者向けだろう。

 確かに、シーズンになると、リュックやバックパックをした若者の姿を駅などで見かけることが多い。

 ただ、こうした状況で、かなり増えているのが、中高年の「青春18きっぷ」の利用者だ。

 まだ朝早い始発の電車には、こうしたリュックを背負った高齢の人々が、何か意気込みをあたりに発散させている光景があったりする。

 むしろ、草食系の若者を抑えて、肉食系のおじさんたちが、車両を占拠しながら雑談をしたり、一人車内をはばからずに朝食にぱくついている姿を目撃することが少なくない。

 さすがに、高度経済成長の時代を過ごした団塊の世代のおじさんたちは、チャレンジングで、まだギラギラした脂ぎった精気が感じられるというものである。

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 私の友人の中にも、どういうわけか、この安く旅ができる「青春18きっぷ」のファンがいて、夏休み、冬休み、春休みなどには、この切符を買って、そして、北から南までのルートを回っている。

 高齢者であるし、何も体力的にきついルートで無理に旅をしなくてもいいのではないか、と私は思ってしまうのだが、この友人は、そうした制限があるから楽しいといって旅を続けている。

 そして、切符仲間を集めては、その魅力を伝道している。

 その毒牙?にかかったある知人は、その魅力にはまってみずから切符の伝道師になって布教活動をしている。

 その熱意のあまり、東京から長距離の東北地方まで息子を連れて行ったほど。

 だが、この息子の方はいい迷惑だったようで、「二度と行きたくはない」と以後、「青春18きっぷ」の旅を拒絶したそうだから、どれほど過酷な旅だったかがうかがわれるといっていいだろう。

 若者でも音を上げる旅に、友人が固執するのも、かつてインドの列車旅や中国の列車旅、それもかなり過酷なスケジュールで踏破した経験があるので、その点からすれば、「青春18きっぷ」の旅はユルイ旅になるのだろう。

 いずれにしても、高齢になっても旅する情熱を失わないというのは、足や膝に故障を持つ私としては、うらやましいような、うらやましくないような複雑な気持ちである。

 そういえば、私もこの友人に誘われて「青春18きっぷ」の旅をしたことがある。

 春休みの時期に、早朝の電車に乗って、待ち合わせ場所に行ってから、信州の長野に行ってきた。

 旅は一人旅も自由で楽しいが、心置きなく話せる友人がいるというのも、悪くはないと思う。

 車窓からは、桃の花が一面に咲いている風景が見え、そして早朝から仕事か何かで家族連れや高齢のおばあさんの一団が同乗していた。

 友人は、いつのまにか、そのおばさんの一人と雑談をしていて、さまざまな話題で盛り上がっていた。

 やはり旅は一人の孤独も味わうのも悪くはないけれど、こうした地元に生活している人々と知り合うことも貴重である。

 といっても、人見知りで引き籠り派の私には、到底まねができないことではあるけれど、こうしたコミュニケーションが気軽にできるというのもうらやましい。

 私は「青春18きっぷ」を有用なものと思っているけれど、なかなか手が出ないのは、それをこの友人のように有効に使うことができないからだろうと思う。

 単独で一枚ではなく五枚でセットになっているから、有効期間のうちに五回は旅に行かなければならないのだ。

 すぐに億劫になってしまう私には無理だ。

 人との新しい出会いをもたらしてくれる旅、それが「青春18きっぷ」の利点だと思うのだが、何しろ、人見知りで引き籠り派。

 私には、この切符は意外とハードルが高い。

 (フリーライター・福嶋由紀夫)

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