「私の心の壁を越えて始まった平和統一の体験」          愛知県犬山市 澤木由加  私の、今は亡き父は、昭和六年生まれの戦前派で、日本の軍国教育真っ只中で育ったため、韓国(朝鮮)に対しては激しい偏見を持っていました。   小さい時から、「朝鮮の奴は危ない。近づくな。」と言われ、ニンニクやキムチは「臭い。そんなのは朝鮮の奴が食べるものだ。」と言って、我が家の食卓に上がった事はありませんでした。また、焼肉屋さんさえも「朝鮮」のものだから、と言って嫌がっていました。  私は、意味はわかりませんでした、なんとなく朝鮮に対して良くないイメージが私の中にずっとありました。  そんな私が成長して、韓国・朝鮮に対しての偏見を大きく変えるきっかけは二つありました。  その一つは、私の親友が、韓国にお嫁に行ったことです。  彼女は、最初韓国語も、韓国の料理も全くできない状態で、夫だけを信じて嫁いだのですが、ほどなく、韓国の国を揺るがす経済ショックが起こり、ご主人は仕事を失い、銭湯で垢すりしたり、妻である親友が内職で作ったものを路上で売ったりしながら、大変苦労してニ人の子供を育てました。  日々の食事にも困り、同居していた姑さんがアパート中を回り、おかずを分けてもらってきて一家五人が飢えをしのいだそうです。  私も、当時、日本で子育て中で経済的には余裕がありませんでしたが、親友のためにせっせと船便で荷物を仕送りしました。  彼女のことが本当に心配だったのですが、ある時、彼女と話せる機会があり、驚いたことに彼女が「私はとても韓国が好きです。生活は大変だけど、一度も日本に帰りたいと思った事はないよ。」と言ったのです。  そして韓国の人たちがどれほど情に厚く、韓国が魅力的なな国か話してくれ、彼女の話を聞きながら、韓国の人たちが困難な時でも助け合いながら生活していることがよくわかり、言葉もわからない、戦争中は恨みがたくさんある日本人である私の大切な友達を、とても大事にしてくれている韓国に心から感謝するようになりました。  もうひとつのきっかけは、十一年前、私がヘルニアという病気にかかった時、あまりにも重症で、手術さえも難しく、激痛のため、横にもなれず、一日に一時間だけ、疲れて気絶してやっと眠れるそんな状態の時、ひたすら柱にすがって泣いていました。  家族のこと、周囲のことも考えることができないほど痛みがひどく、三種類の痛み止めも全く効きませんでしたでした。  ところが、不思議なことに、真夜中にBSでやっていた韓国ドラマを見始めた時、わずかな時間でも、その痛みを忘れて没頭することができたのです。私は他の事は一切できなかったのですが、夢中で韓国ドラマを見始めました。  韓国ドラマはご存知のようにいつも良いところでおしまいになり、絶対続きが見たくなるような構成になっています。それで、たくさんの韓国ドラマを録画し、痛みに耐えながらずっとそれを見続けました。  その後、ありがたいことに三ヶ月くらいで何とかヘルニアは快方に向かい、日常生活に戻ることができましたが、私は韓国ドラマをその後もずっと見続けて、今では、字幕なしでも八割方理解できるようになりました。  韓国ドラマは、言葉だけでなく、生活、文化、風習、伝統、あらゆる方面を教えてくれます。  その結果、今では、自分が日本人なのか韓国人なのか、あまりその境目がはっきりしないほど、自然に韓国文化を受け入れて、そして気がつくと、韓国語を話すこともできるようになっていました。  いざ言葉がわかるようになると、世界が広がって、実際にコロナが明けて再び韓国に行った時、信じられないくらい自由にソウルの街を闊歩し、往来している自分がいました。  そして、韓国ドラマでお馴染みの韓国人気質や言葉、また考え方も理解できるようになっていました。  私はこの体験をできるだけたくさんの人に伝えたいと思い、特に子供たちに韓国の良さを伝えた結果、我が家の五人の子供のうち、ニ人が韓国の大学に留学し、二人は、私と同じように韓ドラで韓国語を習得し、我が家では、韓国語がスタンダードになりました。  もちろん、残る私の夫と末っ子も、韓国のことは大好きで応援してくれています。  そして今思うのは、日本と韓国ほど近い国は無いということです。見た目も言葉も食文化も風習も歴史も、他のどの国よりも近いのが日本と韓国ではないでしょうか?  この二つの国が、海を越えて一つになれば、どれほど両国にとって発展的であるかと思います。そして、間違いなくここから世界平和の出発があると確信します。  最後に、奇跡は知らないところでもおきていました。先述の、私の父ですが、ある時、帰省したら信じられない言葉を言っていました。「近くの春香園(在日の方が経営すら焼肉屋さん)の〇〇は、本当に偉い。今までいろいろあったろうに、よく頑張った。」と褒めていたのです。  そして、その後父もなんと、韓ドラにはまり、『大長今(チャングムの誓い)』など、子供の教育に良いからと、たくさんの韓国歴史ドラマを録画しCDにして送ってくれたりしていました。  時代は変わるし、絶対ということはありません。その中で、我々の心の軸がしっかりしていれば、必ず正しい方向に向かうと信じています。